ポール・ヘニングセン 光について

Om Lys Poul Henningsen

19世紀終盤に発明された白熱電球は、20世紀に入るとともに実用化に向けられていったが、当時、一般住宅に電気照明器具が設置されることは少なく、依然キャンドルやオイルランプが主流であった。照明器具としても、シャンデリアのような室内装飾の意味合いがまだ強かった時代である。

デンマークの建築家 Poul Henningsen(1894-1967)は、労働者に十全な生活環境を提供する住宅デザインにおいて、光の、照明の、新たなデザインが不可欠であることに思い至った。空間構想から明かりを見つめるこの眼差しは、同時代フィンランドの建築家 Alvar Aalto(1898-1976)の志向に通じるものではあるが、Poul Henningsenは、光環境そのもの、照明器具そのものの新しい理論の構築と開発へ向かって行ったのである。

氏の照明器具としては、「PH5」や「PHアーティチョーク」等が世界的に有名であるが、そこに至るまでには、1925年パリ万博デンマーク館設置の「パリランプ」等を始めとする数々の実作と、「近代照明の三原則」等の照明理論の論考、構築があった。

氏自身の手になる著書はないが、1941年ルイスポールセン社広報誌「NYT(new)」創刊にあたり編集長となり、それ以外にも、「Politiken」「Social Demokraten」等の新聞において論説委員を務め、各紙誌が理論構築の格好の場となった。本書は、それらの照明理論を中心に編纂された集大成であり3000部限定で氏没後の1974年に出版された。

ちなみに、Poul Henningsenは、照明デザイナー以外にも、時評家、建築家、映画監督、シンガーソングライターと多彩な顔を持っていたが、グランドピアノのデザインも行っていた。そのピアノ「PH Grand Piano」は、Alvar Aaltoの住宅作品Villa Maireaリビングルームにも据えられている。