Wilhelm Kage Keramikens mastare
画家・グラフィックデザイナーとしてキャリアをスタートさせたWilhelm Kåge(ヴィルヘルム・コーゲ1889-1960)は、スウェーデン工芸協会(Svenska Slöjdföreningen)の推薦を受け、グスタフスベリ製陶所へセラミックデザイナーとして入社した。1917年、28才のことである。
グスタフスベリ製陶所は17世紀中葉、貴族の所領地と附属の煉瓦工場として始まったが、経営主体の移行とともに1825年、ドイツの製陶技師を迎え製陶所として新たなスタートを切った。当初は英国風、銅版プリントもの主体であったが、やがて、北欧模様によるNordiska Stilの作品群を世に出すなど、国際社会でも高い評価を得るに至った。
しかし、近代工業化の流れとともに、生活の質的向上に資する良質なマス・プロダクトへの要請が高まり、1910年以降、スウェーデン工芸協会は有能な若手芸術家・建築家を、分野を超えた産業領域へ積極的に招致し、デザイナーと職工の協働による生産体制構築を図った。デザイナーWilhelm Kågesもそのひとりとして、グスタフスベリ製陶所に加わったわけである。
入社初年ストックホルム、リリエヴァルクス・ギャラリー(Liljevalchs Konsthall)で開催された「生活博覧会Hemutställningen」に、「Liljeblåリリエ・ブロア(青いユリ)」サーヴィスを出品。過装飾を廃したフォルムに、コバルト・インクによるシンプルな「ユリ」をアクセントポイントとした当時としては斬新なデザインであった。
1933年には、機能主義的なテーブルウェア「PRAKTIKAプラクティカ」シリーズを発表。これらコーゲの作品群は、それまで主流であった新古典主義を脱し、新たな時代の北欧モダン・デザインの世界を切り開く象徴的なプロダクトとなったのである。
一方1910年代以降、グスタフスベリ製陶所ではプロダクト製品とともにアート・ポタリーの制作にも重点を置いた。Kågeのアート・ポタリーとしては1930 年に発表した「ARGENTA(銀)」シリーズがある。深い緑釉・暗赤釉を掛けた陶胎に、熟練の職人が拡大鏡を駆使しながら丹念に銀箔で象嵌を施したもので、1950年代まで制作が続けられ、今もコレクター垂涎のシリーズとなっている。
1942年、グスタフスベリ製陶所は業務多角化ともに所内に美術部門「通称G-STUDIO」を設立。ここを拠点に、Kågeは晩年に至るまで、作家性の高い作品群を世に出していくのであるが、同時に、轆轤陶芸家Berndt Friberg(ベルント・フリーベリ1899~1981)、Stig Lindberg(スティグ・リンドベリ1916〜1982)、さらにその後進リサ・ラーソン(Inga Lisa Larson1931-)等とともに、1950年〜1970年代、グスタフスベリ製陶所の黄金期を築いて行ったのである。
本書は、スウェーデンのジャーナリストGisela Eronn(ギセラ・エロン)による著書。様々なポスターを制作したグラフィックデザイナーのKågeから始まり、グスタフスベリ製陶所でのモダンデザインによる様々なサービスを世に出したKåge、後半では、アート・ポタリーARGENTAとFARSTAを中心に論じている。