ムーミントロール

Mumintrollet ムーミントロール

トーベ・ヤンソン(Tove Marika Jansson 1914-2001)が、ムーミンの原型らしきものを最初に描いたのは、スウェーデン語系のフィンランド人向け風刺雑誌Garm誌(1923〜1953刊行)にであり、1940年代当時は画中の隅のほうにいる小さな目立たないキャラクターにすぎなかった。そもそもは、ナチス侵攻やソ連との継続戦争やという戦争体験の、胸を締め付けられるような恐怖心が姿をまとったものであったらしい。

トーベは以前からスノーク(Snork:醜い生き物)と呼んでいたキャラクターを、1944年にムーミントロールとしてあらためて物語に書いた。フィンランド、スウェーデン国内での注目度は決して高くはなかったが、1954年、イギリスの夕刊紙イブニング・ニュース紙上にコミックとて連載されたことから、世界的知名度を上げていった。
原画をトーベが描き、弟のラルス・ヤンソン(1926-2000)が英訳した。しかしコミックス連載の重圧や他の活動との掛け持ちがトーベにとって苦痛となり、60年以降はラルスが単独で引き継ぎ、1975年まで連載された。本書は、後にスウェーデン語の単行本として発行されたものである。

ちなみに、トーベという名前は、北欧神話の神トールに由来する表記から付けられたという。また、トーベは自分の物語が人気の理由として、「スクルットSkrutt(役立たず)」について書いているからではないかと語っていた。
スクルットとは、どこにいても居心地が悪く、人の輪の外に立っている恥ずかしがり屋を指す。人間は幸せな時もどこかに恐怖感があり、それを認めることでシンプルな世界や穏やかな心を手に入れ、恐れる気持ちを楽しむことができるとトーベは考えていた。